7月中旬は梅雨真っ只中。前年(2004年)は空梅雨気味で猛暑が続いたが、今年は梅雨らしく前線が福島県上部に停滞して毎日天気予報がコロコロ変わる。一日先の天気も読めない。15日は予想外の好天だったが山に行くには暑すぎた。せっかくの夏休みだからもう一回は吾妻山を探訪したい。夜、実家でテレビの天気予報を見ていて、週末の天気が優れないようなので、翌日(土曜日)に日帰りで登ることに決めた。前回(13日)は一泊前提で釣り用具まで持っていったので装備が重かった。今回は歩きに徹して軽めの装備で望む。目的は、前回下りに使用するつもりだった蒲谷地から駕篭山稲荷神社までの破線路探索である。
15日夜から翌明け方までまとまった雨が降った。朝7時には猪苗代盆地の平野部では雨が上がったので出発。沼尻鉄道の跡である真っ直ぐな道を北上していくと下館集落より以北はまだ雨が降り続いていた。当然のことながら吾妻山は雲の中。木地小屋集落で国道115号から左折し、トンネルを抜けて一沢(発音:イッツァワ)集落へ抜け、大倉川と小倉川に挟まれた蒲谷地(発音:ガバヤジ)の道に入る。蒲谷地集落の入り口に大山神社があり、その前に登山届け入れがある。ここが昔の登山口であるが、今は歩く人はいない。小倉川支流の井戸尻川沿いの林道を進む。この林道は何年か前に破線路と交差する場所を探して、大きく折れ曲がる場所まで車で入り込んだことがあった。そのときと同様、道は荒れていない。ゲートも開いており安心して車を進める。登山道入り口を確認し、その少し先にある広場に車を停めた。まだ雨は止んでいないが、ガスが徐々に上がっていくので、準備開始。
ようやく雨が上がったので8時30分頃に雨具を着て出発。林道から登山道に入ろうとして地面の乱れが気になった。ここまで車で登ってくる間、人の姿は見なかった。まさか雨の中、早朝に行動したとは思えない。昨日天気が良かったので歩いた人がいたのであろう。難路とされていたので心配していたが、歩く人がいるのだから心強い。ところが、道はいきなり下り坂の悪路となる。雨が降っているので地図を出すのが億劫だ。登山道を下っているような気がして車に戻ってしまった。林道に戻って地図を確認して仕切りなおし。
08時50分 登山道入り口から歩行開始(標高約1,340m)。 標高が高いので、歩き始めからアオモリトドマツの樹林を歩いていく。最初の沢に向けての下りは吾妻山神社へ下る時よりも雰囲気が悪い。雨が降っていたのでゴツゴツした岩と木の根が滑りやすい。沢を渡り、その後は比較的歩き易い道を行く。周囲は2.5m以上の高さのチシマザサの藪だが、適度に笹刈りされているので藪漕ぎしなくて済む。樹木の幹や岩にまばらに赤ペンキで印がある。
細い涸れ沢で道が無くなった。どうやら涸れ沢を登っていくらしい。結構な降雨量があったのにこの沢は水が流れていない。岩はツルツル。岩は削れておらず歩く人が少ないことを物語る。途中に「登山道」の標示があるが、その方向は完全な笹藪。そのまま涸れ沢を半信半疑で登っていくと左に登山道の続きが現れる。
尾根に上がるとまるで伐採地のように明るい雰囲気である。アオモリトドマツの倒木が多く、開けた場所に草木が繁茂し、踏み跡が消え入りそう。おまけに何本も太い倒木が道を塞いでいる。尾根を横切り、水の流れる細い沢を2つ渡り、しばし急登すると大きな涸れ沢に出る。反対側に道は無い。これがガイドブックに「涸れ沢を400m登る」とされている場所である。
09時50分 涸れ沢を遡行開始(標高1,511m)。 梅雨時は結構水が流れている。岩が大きく、登山道とはとても思えない。鳥海山の幸次郎沢を思い出した。赤ペンキの印はたまに現れる程度。岩に削れたところは無いので昔から沢を登るコースではなかったと思われる。2万5千分の1の地形図では涸れ沢(鴛沢)の左岸側に破線路があるが、現在は藪化して辿れない。途中で左岸側に赤布や赤ペンキがあり、踏み跡があるので辿っていったら消えてしまった。初めてこのコースを辿る人は全てここに迷い込みウロウロするので踏み跡が維持されているのであろう。危険な場所である。結局、元に戻って涸れ沢を登っていった。
沢右岸にある登山道の続きに入るとほっとする。しばらくは山肌を斜めに登るが、その後はほぼ同じ標高で東吾妻山を時計回りに巻くような感じで歩いていく。道は細いが笹刈りされているので見失うことはない。細かなアップダウンが多く、木の根があるので決して歩きやすくはない。
雨は上がった。ガスはない。ほんの一瞬晴れ間が覗く程度で強い陽射しは無い。湿度は高いけれども適度に涼しく、風もあるのでじっとしていると寒いくらいだった。
10時54分 駕篭山稲荷神社下の交差点到着(標高約1,730m)。 2万5千分の1の地形図では標高1,680m付近にあることになっているが、稲荷神社までたった数分しかかからないので実際には約50m高い場所にあると思われる。
赤く塗られた塩ビ製?パイプで作られた鳥居がある。自分が歩いてきた方向は「悪路」と書いてあった。
10時59分 駕篭山稲荷神社(標高約1,786m)。 駕篭山稲荷神社に向けて登っていく途中、真新しい足跡があったので、先客がいたらしい。東吾妻山北西側の小ピークを駕篭山と呼ぶのだろうか。ピークに石祠有り。何の説明もないが、前年奉納された幟の文字を見ると、福島市方面に祀る人がいるらしい。眺望は無いのですぐに引き返す。
交差点から姥ヶ原方面に進む。棘がびっしり生えたハリブキが目立つ。浄土平の方から来るハイカーが歩くコースなのでもっときれいな道を期待していたのだが、これも悪路である。途中、見晴らしが良い一帯があり、烏帽子山、昭元山、谷地平、継森を一望できる。この辺りでイワカガミ、ベニサラサドウダン、ハクサンシャクナゲ、コバイケイソウなどが満開。登山道下方のアオモリトドマツの樹冠には青紫色の直立した球果がたくさんついていた。
ダラダラとした登りの後で風衝地の斜面に出る。ハイカーが適当に歩くのでどこが道なのか判然としない。道標のようなものを目印にして適当に登ると姥ヶ原西端に出る。どこを見ても鋭角なものがないなだらかな風景。吾妻山系は全体的になだらかな印象だが、ここがその最たるものだ。姥神石像の横の道標で何名か昼食休憩をしていたので立ち寄らず、そのまま木道を歩いて鎌沼と一切経山を見渡せる場所へ向かう。残念ながらチングルマの花期は過ぎてしまっていてあまり見るものはない。
11時58分 姥ヶ原到着(標高1,780m) ここで昼食とした。曇り空だがガスは無い。気温は高くも低くもない。強くはないが風が吹いているのでじっとしていると少し寒いくらい。この時期としては快適といえるだろう。遠く一切経山に多くのハイカーが見える。鎌沼の周囲にも何名か姿が見える。さすが土曜日。朝雨が降っていたのにこれだけ多くのハイカーが浄土平から登ってくることに驚かされる。どこまで行ってきた人達なのか知らないが、木道を再び西に歩いて姥神石像に至るまでの数百mの間に10数名と擦れ違った。対照的に、その後、谷地平へ至るまでの間は誰一人遭わなかった。
谷地平へ至る道は多くの登山者が歩くために幅が広く迷う心配は無い。但し、それまでの道と同様に木の根が張り出し、グチョグチョで悪路の下りである。下りが長いので、帰りに再び駕篭山稲荷神社下の交差点まで登ることを考えると少し心配になった。イワナが棲んでいても不思議ではない姥ヶ沢を渡渉すると谷地平避難小屋が見える。小屋の手前で姥ヶ沢にキリン一番搾りがたくさん冷やしてあった。小屋入り口では一人が中にいる仲間と話中。昼間からこんなところで泊まる準備をしているとは不思議な連中だ。小屋を通りすぎ、再び姥ヶ沢を渡渉する。谷地平南の草原は腰高のチシマザサ原にモミジカラマツの白い可憐な花やシシウドが咲く程度。
13時17分 谷地平南の交差点到着(標高1,480m)。 地形図に記載されている石碑を目当てに来たのだけれども、道標以外何もない。後ろに人の気配を感じて振り返り我が目を疑った。なんとウェーダーを履いて2ピースのフライフィッシングロッドを持った3人組だった。「姥ヶ沢で釣れるんですか?」と聞いたところ、「ここはいない。あっち。」というぞんざいな返事。あっちというのは大倉川のこと。ヤケノママにイワナがいるくらいだからひょっとしたら大倉川にもいるかもしれないと思っていたが、やはりいるらしい。姥ヶ沢でビールを冷やしていた連中のようだ。小屋をベースにして今日、明日と釣りをするのであろう。しかし、3人で釣るほどの場所があるのか?言葉を交わしたリーダー格は仲間に道筋を説明して姥ヶ沢沿いに引率していったので、来慣れた場所であるらしい。
谷地平湿原はこの北側の少し標高の高いところにあるらしい。少し北側に木道を歩いてみたが、あまり花が期待できなかったので引き返す。その途中で西に向かう細い踏み跡があったので進入。谷地平南歩道と書いてあった。谷地平湿原に至る別ルートなのかと思ったらそうではない。大きな岩が突き出た場所に至った。
13時28分 白鳳寺跡到着(標高約1,500m)。 石碑が3つ有り。幸運にも修験の跡に行き着いた。年代を示すものはない。説明板も何もないので遺跡らしい雰囲気。かろうじて倒れていた石碑から、ここに白鳳寺があったらしいことが読み取れた。一番大きい石には「蚕養の神」と彫られているので、猪苗代町蚕養(こがい)地区にとって神聖な場所とされていたようだ。中吾妻山に至る修験の道跡が西に続いていることを確認し、後日の楽しみとして引き返す。予定では大倉川まで行ってみるつもりであったが、先ほどのフライマン達とはちあわせしそうなので止めた。
谷地平の交差点に復帰し、姥ヶ沢を渡渉して駕篭山稲荷神社に向かう。姥ヶ沢近くの小さな湿原ではワタスゲが揺れる。モミジカラマツを撮影し、振り返って谷地平の光景を一望して、コメツガやネズコが鬱蒼とした陰湿な樹林帯に入る。この道は他の道に較べると荒れていない。右側に小滝へ至る不明瞭な踏み跡が分岐する。標高が高くなってジメジメ感が薄れるとアオモリトドマツの原生林に移行する。
14時23分 駕篭山稲荷神社下の交差点復帰(標高約1,730m)。 木の根や岩がゴツゴツしていて、あちこちに罠がしかけられているようなものだ。こんなに気の重い帰り道は久し振り。往復で道の特徴がしっかり記憶に残るというメリットはあるが、最後はやはり快適でありたいものだ。チシマザサの筍が登山道にニョキニョキ出て胸程度の高さに育っているので、ストックでバシバシへし折りながら進む。
14時59分 涸れ沢の下り開始(標高1,600m)。 最も緊張する場所。うまく登山道に復帰できるかどうか危惧していたが、案ずることはない。この涸れ沢は最後は断崖となって大倉川渓谷に流れ下る。登山道を見落とすことはないとは思うが、万が一、断崖まで行ってしまったらほんの少し戻ったところに登山道の続きがある。
大きなアオモリトドマツの倒木があった。倒れたばかりで、良く見ると青紫色の球果がびっしりついている。高い樹冠にしか付かず、写真に収めるのが困難で残念に思っていた。イラモミの球果を見たときと同じくらいの感動を覚えた。
林道へ抜ける手前の沢で服を洗い体を清めて、充実した山歩きを締めくくった。
16時07分 車に帰着・歩行終了。 猪苗代町から吾妻山に登るルートを中津川渓谷コース以外全て辿ることができて満足。ふるさとの山々を見直した充実した夏休みであった。
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